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アロマテラピーの歴史:中世~植物療法の発展

アロマテラピーの歴史は実に奥深く、数世代にわたって発展してきました。本記事では、中世を中心にアロマテラピーのルーツを辿り、アラビアや中世ヨーロッパ、日本における香りの文化や植物療法の進展について詳しく解説します。

中世では約200年間続いた十字軍の遠征によって東西が交流し、世界三大伝統医学の1つのアラビア医学や蒸留技術、各地の薬草やハーブなどもヨーロッパに伝わりました。魔除けに芳香植物が使われる一方、植物療法を中心とした医学が体系化され、近現代医学の基礎が作られていきます。

 

アラビア・イスラム社会:アラビア医学や化学が隆盛

 

476年、西ローマ帝国が崩壊し、文化、科学の中心はイスラム帝国に受け継がれます。古代ギリシャのヒポクラテスや、ガレノスの著書がアラビア語に翻訳され、ギリシャ医学をベースに、中近東、エジプト、インド、中国など、周辺地域の医学的な知識を統合し、ユナニ医学(ユナニ=アラビア語でギリシャの意味)として、イスラム帝国で発展しました。

 

アルコールの発明と蒸留技術の確立

 

アラビア社会での化学の発展は、アルコールの発明と密接に関連しています。アラビアの学者たちは、アルコールを含む飲料を生成するための技術を発展させ、特に蒸留技術が確立されました。この蒸留技術は、アルコールを精製して他の化学物質と分離させるための重要な手法です。この技術のおかげで、蒸留酒や香料、さらには医薬品に使われる水溶液が作られるようになりました。蒸留の技術が進化したことにより、より純度の高いアルコールが可能になり、香料や医薬品の成分としての利用が急速に広がっていきました。

その後、中世ヨーロッパの人々がその技術を学び、薬酒を造り、オーデコロンを生み出し、そして香水へと発展を遂げていきます。

 

イブン・シーナー

 

イスラム帝国時代に医者・哲学者として活躍したアラビア人イブン・シーナーは、天文学や数学、文学など幅広い分野の学問に精通した知識人でした。彼は治療の際に、ローズウォーターなどの芳香蒸留水を使用しています。また、著書の『医学典範(カノン)』は、ヨーロッパの医科大学の教科書として、17世紀頃まで用いられたといいます。

 

中世ヨーロッパ:僧院医学の普及と医学校の開設

 

キリスト教を中心とした中世ヨーロッパ社会では、修道院の修道士たちによって医学の知識が伝えられ、発展しました。この医学を「僧院医学(修道院医学)」といいます。修道院内では、治療に用いる薬草も栽培されていました。

 

サレルノ

 

イタリアのサレルノとフランスのモンペリエに開設された医学校は、医科大学へと発展しました。また、十字軍の遠征により、イスラム諸国の影響を大きく受け、イブン・シーナーの『医学典範(カノン)』をはじめ、ヒポクラテスやガレノスの知識を伝えるアラビア語の書籍も次々とラテン語に翻訳されます。『医学典範(カノン)』は17世紀頃まで教科書として使用されました。このようにこの医科大学は、アラビア、ギリシャ、ローマの医学知識を融合させた教育体系が特徴です。特に、サレルノの学校では、ギリシャのヒポクラテスやガレノスといった古典的な医者の教えが重視されつつ、アラビア世界から伝わった医学の知識も取り入れられました。また、医師の養成においては実験や観察が重要視され、病人を診る実践的な教育が行われたのです。これにより、多くの優れた医師がここから巣立ち、ヨーロッパ各地に医学の知識を広めました。

 

ヒルデガルト

 

中世ドイツの修道女ヒルデガルトは、治療用のハーブの活用法を著書にまとめています。彼女が述べた薬草の採集・保存法などは現代でも通用するものであり、ドイツ植物学の基礎を築いたとされています。なお、彼女はラベンダーの効能を最初に紹介した人物ともいわれています。

 

ハンガリアン・ウォーター

 

14世紀、中世ヨーロッパの僧院医学において有名なエピソードが「ハンガリアン・ウォーター」です。70代のハンガリー王妃が手足の痛みに苦しんでいた時に、修道女にローズマリーを主原料とした痛み止めの薬(ハンガリアン・ウォーター)を処方してもらいました。使用した王妃は痛みが取れた上、隣国のポーランド王子に求婚されるほど若返ったといわれています。今なお「若返りの水」として、そのレシピが受け継がれています。

 

ペストを防いだハーブの力

 

中世ヨーロッパでは、ペスト(黒死病)が大流行し、多くの死者を出しました。街頭でハーブやスパイス、樹木・樹脂による燻蒸が行われ、果実にクローブなどを詰め、乾燥させた「ポマンダー」を魔除けとして身に付ける人も多くいました。人々は自然の力を利用して病を防ごうとしました。

17世紀の南フランスのトゥールーズでは、ペスト患者の亡骸から金品を盗んでも、ペストに罹らなかった4人組の泥棒が話題に。ブラックペッパーやラベンダー、ローズマリーなどのハーブを酢に漬け込んだハーブビネガーを全身に塗った泥棒たちのレシピ「盗賊のビネガー」が流行したそうです。

 

日本:貴族の遊び「お香」が「香道」に発展

 

日本における香りの文化は、古くから貴族たちによって愛され、育まれてきました。この香りの文化は、「お香」という遊びから発展し、やがて「香道」へと進化しました。

 

平安貴族たちの宴会(源氏物語「梅枝」

 

香木の伝来(飛鳥時代)

 

仏教の伝来とともに、中国や朝鮮半島など、アジア諸国から様々な文化が日本にもたらされます。香りについての記述で最も古い文献は『日本書紀』。飛鳥時代に遡ります。推古天皇3年(595年)に、淡路島に香木である沈水が漂着したと記されています。聖徳太子の伝記である『聖徳太子伝暦』や歴史物語の『水鏡』などにも同様の記述があります。沈水とは、沈水香木(沈香)のこと。ジンチョウゲ科の木で、原産は主に東南アジアの熱帯雨林。沈香は現在でもお香の原料として使用されています。

 

日本の貴族とお香(平安・室町時代)

 

平安時代には、貴族の間で「お香」が親しまれました。当時の様子は紫式部の『源氏物語』の「梅枝の帖」にも描かれています。室内で香を燻らせて楽しむ「空薫物」や、衣服や寝具に香を焚き染める「薫衣」、香薬を調合してその優劣を品評する「薫物合」などの風習が親しまれました。

室町時代になると、香りを楽しむことを基本とする「香道」という芸道が成立します。香道の2つの流派は、どちらも将軍足利義政の東山山荘に集った文化人が興したものです。公家であり、書・古典の知識が深い学者でもあった三條西実隆は「御家流」、実隆と問香を嗜んだ志野宗信は「志野流」の開祖です。技術や礼儀は洗練され、香りの文化はますます深まっていきました。香道の流派は継承され、現在まで日本の伝統文化として定着しています。

このようにして、香は日本の貴族文化の中で重要な役割を果たし続け、香道という独自の文化へと成長していったのです。貴族たちの情熱と創意工夫によって、香道は単なる遊びを超えて、精神的な探求や美意識を表現する芸術へと昇華していったのです。

 

まとめ

 

いかがでしたでしょうか。

このように香りの文化は、歴史や社会、宗教、そして人々の交流の反映でもあります。特に東西の交流は、香りの文化に多大な影響を与えてきました。古代から続く交易路や、戦争、移民などさまざまな要因が、香料やその使用に変化をもたらしてきたのです。

 

東西の交流が香りの文化に影響

 

東洋と西洋の文化が交わることで、香りに対する価値観や使われ方が大きく変わりました。アラビア・イスラム社会では、香料の蒸留技術や医療用のハーブが発展し、これらの知識は後にヨーロッパに流入しました。特にイブン・シーナーは、彼の医学書や著作を通して香料の効能を広め、西洋の医学に影響を与えました。その結果、香りは単なる嗜好品から、医療や宗教儀式の重要な要素として位置づけられるようになりました。

一方で、中世ヨーロッパでは、香りは神秘的で神聖なものとされ、僧院での研究や医学校での教育が香料の使用に影響を与えました。サレルノの医学校では、香料が健康を保つためのハーブとして使われ、ヒルデガルトの著作にも多くの香りが登場します。特にペスト流行時には、ハーブ治療が注目され、それが香りの文化にさらなる深みを加えることになったのです。

さらに、日本では、香木の伝来によって貴族たちが「お香」を楽しむことで、香りの文化が受け継がれました。飛鳥時代から平安・室町時代にかけて、日本独自の香文化が形成され、最終的には「香道」として発展しました。このように、日本の香り文化も東西の交流の影響を受け、独自の発展を遂げたのです。

このように、香りは単なる嗜好の域を超えて、各地域の文化や歴史、そして人々との交流によって豊かな表現を持つものとなっています。東西の交流は、香りによる文化の多様性を生み出し、私たちの生活に深く根付いているのです。今日でも、香りは国境を越えて私たちの生活に影響を与え続けています。これからも、歴史の中で育まれた香りの文化が如何に変化し、また私たちの未来にどのように影響を与えるのか、非常に楽しみです。

この記事を書いた人

やまだ かおり

神奈川県湘南・大磯で、nico_tto~かおりの教室~をしております。暮らしを彩るアロマグッズの販売やワークショップ等も随時開催。曲の世界観を香りにしたearphone・aroma(イヤホンアロマ)を世に広めるべく奮闘中♪
【保有資格】AEAJアロマテラピーインストラクター・アロマハンドセラピスト、@aromaアロマ空間デザイナー

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